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昨年の夏に山に行ったときのこと。夜だった。雑木林の泥の道を歩いた。泥をかぶってずぼずぼとはまりそうになる。遠くに灯りがみえた。
目指す小屋に着くと泊まりの手続きをする。夏も終わりの時期に登山客は少ない。部屋に案内される。八人は泊まれそうな部屋にひとり。灯りを消すとまっくらだ。布団に入ってすぐに眠った。
夜中にとなりの部屋の音に気づいた。壁の向こうでばさばさとシュラフか何かを畳み直すような音がした。繰り返し繰り返し音が続く。大きな鳥が羽を広げては閉じるような音だ。聞くうちにまた眠りに落ちた。
翌朝、朝食に小屋の食堂へ。二列並んだテーブルにサラダを盛った皿が二箇所に揃えてある。席につくと一人の男が入ってきた。となりの部屋の客だろう。重そうにからだを引いている。おはようございますと声をかけるとええと疲れたように応じた。男が座る時に背中が見えた。背中に泥がついている。泥は鳥の翼のかたちをしていた。
その他
公開:22/02/17 10:18

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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