まぶたを開けるまで

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私はまぶたを閉じた。
鼻から息を吸い込んで肺の膨らみが良い頃合いになると、口からゆっくりと息を吐き出す。
呼吸をするのは気持ちが良い。
全てが穏やかになるからだ。

深い呼吸を繰り返す度に血が体を火照らせ、額に汗を運んでくる。
だが、ひんやりとした風や水は必要ない。
私のまぶたの裏側は、神が作り出した光に満ちているからだ。
昼だろうが夜だろうが、健康だろうが怪我をしていようが、それは変わらない。
何も考える必要はない。
美しい光の恩寵(おんちょう)が今ここにあるのだ。
そのまま言葉や音を忘れ、自分自身さえも忘れることが出来るような気がしたそのとき、額に滲んでいた汗が爛(ただ)れた皮膚に流れた。

「よし、次! ……次! お前、ボサッと突っ立ってんじゃねーぞ。早く来いボケ!」

私は突然の大声と共に頬を叩かれてまぶたを開けると、そこはいつもと変わらない、空気が淀んだ薄暗い人体実験室だった。
ホラー
公開:22/02/13 06:26
更新:22/02/13 06:36

泉 千緒(イズミ チオ)

私は元読書嫌いの人間です。
今まで本は学校の教科書や、就職に役立つかもしれないと思った自己啓発系の本を読むという、全然楽しくない読書でした。
小説を読む内に面白くなり、自分でも書いてみたくなりました。
よろしくお願いします。


 

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