卒業とパン

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「安田のやつ、卒業したら専門学校に行ってパン職人になるって言ってたよな」

席上の誰かがポツリとつぶやいた。
卒業式を数日後に控えた、ある日の会合。
クラスメイトの大半が、そこに集まっていた。

「職人になったら、お前のパンを食ってやる、なんて言ってやった覚えがあるぜ」

他の誰かが言った。

「ま、社交辞令ってやつだけどさ」
「しかし、その気になれば、そう出来る可能性があっただけマシさ」

そう。
もう、その可能性はなくなってしまった。
安田は、卒業を待たずして、パン職人でなく、パンそのものになった。

クラスメイトの大半が出席した本日の安田の葬儀に、本人の遺体はなかった。
激しい交通事故で『ジャム』の大半が流出したその痛ましい姿は、とても、式に出席する人間たちに見せられる状態ではなかったのだ。
ホラー
公開:22/02/12 10:36

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