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「桜が綺麗だって聞いて来たんだけど。」
男は窓から外を見ながら女将に声を掛けた。
「それは申し訳ありません。当旅館の桜をご覧になるのでしたら、また夏頃にお越しください。」
男は半信半疑ではあったが、また来ることにした。
2度目の到着は夜になった。
「良い時期に来られましたね。そうですね、明日の7時頃に窓からの景色をお楽しみ下さい。」
そうして眠った男だったが、楽しみで楽しみで早くに目が覚めた。
気持ちが逸るが、男はなんとか堪えてその時を待つ。
そうして時計が7時を示した瞬間、男は一気に窓と己の気持ちを解放する。
そこには一面に広がる大海原があった。
「狂い咲き、と呼べばいいのでしょうか。この辺りの桜はこの時期になるとそれは見事な青色の花を咲かせ、風の強い朝にこうして海を見せてくれるのです。」
女将の言葉が聴こえない様子で、男はただ風で立つ波と、陽の光を受けて輝く光景をいつまでも眺めていた。
その他
公開:22/03/14 18:00

ハル・レグローブ( 福岡市 )

趣味で昔から物書きをのんびりやってます。
過去に書いたもの、新しく紡ぐ言葉、沢山の言の葉を残していければと思います。
音泉で配信されているインターネットラジオ「月の音色 」の大ファンです。

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