絵葉書の昆虫採集

僕の趣味は昆虫採集。といっても野山を駆け回って網を振るわけではない。集めているのは友人から送られてくる虫の絵だ。

彼との付き合いはもう２０年以上になる。
体が弱くて学校を休みがちだった、子供のころの僕。彼は見舞いがてらうちに来て、自作の絵をくれた。細部まで描きこまれ、今にも動き出しそうな昆虫だ。見ているだけであっという間に時間が過ぎる。おかげでベッドにはりつけでも退屈しなかった。

そのうち進路が分かれ直接会うことはなくなったが、彼は絵葉書で虫を送り続けてくれていた。

ところがある時期、それがぱたりと途絶えた。彼も忙しいのだろう、このまま僕たちの関係は終わるのかも…などと考えていたところに便りが来た。
カブトムシの細密画の横に、クレヨンで描かれた歪な黒い丸。以下の一文が添えられていた。
「子供が生まれました。手のかかるやんちゃ坊主です」
その絵は今でもコルクボードの一番上に留めてある。