壁のシミ

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終末期は自宅で過ごしたいというかねてからの妻の希望により、今は寝たきりの妻と二人暮らし。いわゆる「老老介護」だ。
大好きなお笑い番組を見せても私が笑うばかりで、妻はピクリとも表情を変えない。ふと壁に目をやると、シミがあった。なんだか笑っている顔のように見えるシミだ。拭き取ろうと思ったが、笑顔に見えている今はやめておこう。
またあるとき、妻も私も大好きな『僕のワンダフル・ライフ』のDVDを観た。やはり妻は表情を変えないが、私は感動して号泣。壁のシミも泣いているように見えた。
もしかしたらこのシミは私の分身かもしれない。そう思うとなんだか愛着がわいてきた。
ある朝、いつものように妻の手首を触ったが、脈はなかった。覚悟はしていたが、いざ逝ってしまうと悲しくて涙が出た。ところが壁のシミはにっこりしていた。
——ありがとう。
シミがそう言っているように見えた。
直後、シミはゆっくりと消えた。
その他
公開:22/02/08 17:00
更新:22/02/09 00:02
シミ 夫婦 どんでん返し

雪宮冬馬

日本生まれ日本育ち。年齢約20代。まだまだこれからの男です。
noteでもショートショート書いてます。
よろしくお願いします。

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