皇帝

「こんなはずではなかった」
普段は出さない弱音が酔いを含み口をついた。
「何を言ってんだ。この成功者が」
医大時代の旧友が口を尖らせる。「これ以上、何を望むんだ。」と　

「『皇帝』なんて呼ばれて。お前はスーパードクターだよ」
彼は如何に自分が正当な評価を受けていないかを演説し続けた。最後には「お前はいいよな」と付け加えて。

金が何かを満たしてくれたろうか？
名誉が何かの役にたつのか？
皇帝？道化の間違いじゃないか。

たなびく白衣はヒーローマントのようで
命を救うために医師になった。
自分にそれができているだろうか？

人喰い病院と揶揄される
病院の真実は、私のしてきたことは
正しいことだろうか。

来る日もくる日も
私は外科手術により人の顔を他人の顔に変えた。

時に凶悪犯の逃走を幇助し
他人の人生を与えた。

得られる報酬が膨らんでいくのと同時に
私の苦悩も暗く大きくなっていく。