傾聴師の一日

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「若い頃はたくさんの女の子に言い寄られてネ、選ぶのも難儀したくらいサ。外で会って少し言葉を交わしただけですぐに付き合っているって噂を勝手に流されたりナ」

本日のクライアントの語りはモテ自慢に終始した。こたつの脇に空のビール缶が数本転がっているのを見ると既に相当酒を入れているようだ。私は笑顔で頷きながら「お若いころの色気はまだご健在ですよ」と太鼓を叩く。「まだまだ捨てたもんじゃないよナ」と彼は深いしわの奥の目を妖しく光らせる。

私は現在、傾聴師を名乗り、独居老人を中心に各戸を回っている。嫌な顔ひとつせず、相手の話にひたすら耳を傾け、報酬をいただくーー仕事内容は極めてシンプルだが、恋愛自慢や仕事自慢が大半でかなり体力を削られるため、1回1時間が限界だ。客層は小金持ちが多く、全員が男性だが、彼らはもはや過去にしか生きられない。人生100年時代と言うが、今を生き続けることはそう簡単ではない。
ホラー
公開:22/02/06 19:48
未来 暗黒 人生100年時代

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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