葛コン湯

5つ山の向こうに春が来ない村があった。
見渡す限り雪と氷柱に閉ざされた銀世界の仕業が洞窟に住む白狐のせいだという噂が広まった。
村人たちも風邪が長引き、鼻水も凍り呼吸に苦しむ者も増える一方であった。
従来の「葛根湯」も全然効かない。
困った薬師は洞窟の白狐の様子を見に行った。
「コン、コン」
「私の風邪が長引いているせいで、皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「コン、コン」
白狐の症状は悪くなる一方であった。
薬師は白狐の吐く息が猛吹雪の原因であることを突き止めた。
村に帰った薬師は生薬を調合し直して、新しい薬を作った。
「葛コン湯」が出来たぞ。
早速、村人たちが服用すると、たちまち凍った鼻水は溶け、呼吸は楽になり、熱も下がった。
白狐にも服用させると、みるみる症状は改善し、吹雪はおさまった。
村の雪や氷柱も溶けて、打って変わって快晴になった。
やっと、村に春がやって来た。