豆の恩返し

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あと10分で明日になる。
私は今日が節分だということを忘れていた。
年の数だけ豆を食べて、一年の健康を願う行事を忘れていた。
どうしよう、今からコンビニに行っても間に合わない。

「これ、これ」
一粒の豆が見上げていた。
「私は去年あなたが撒いた豆です。壁と箪笥の隙間に入っていました」
私は豆を拾い上げ、埃のかぶった頭をぬぐった。
「掃除機の音が聞こえると吸い込まれないかとびくびくしていましたが、あなたは私を見逃してくれました。だから恩返しをさせてください」
豆が口笛を吹くと、箪笥のすきまから仲間の豆が出てきた。
「どうぞ、お召し上がりください。今年も一年健康で過ごせるように年の数だけ召し上がってください」
私は健康を願いながら、豆を食べた。


早朝、激しい腹痛で目を覚まし初めて救急車に乗った。
意識が遠のく中、聞こえた。
「夜中に煎り豆を93個も食べたら、腹も痛くなるやろ」
その他
公開:22/02/03 13:00

風薫

第二の人生の趣味探しをしています。
老後、寝たきりになってもできる趣味探しをして、超ショートショートに出会いました(笑)(泣)
 

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