濃密な首輪

潮騒の音に昼寝から覚めた。浜辺のデッキチェアで海風が心地よい。トロピカルカクテル。眼下に広がるどこまでも青い海。
しっかりと硬いカラー、というより首輪。これが私の行動、生体情報、その時々の私の思考、感情、妄想までをも吸い上げる。吸い取られた情報はネットを通じて世界中に発信される。私が見る景色、聞く音、映像コンテンツはリアルタイムで放映される。私が思い感じること、友人との交流、睡眠中の夢まで。ここに書いている内容も逐一放映されている。
何のため？リアルタイムショー番組である。人間そのものが今やネットの最強コンテンツとか。潤沢な制作費で私は望むところに旅をして、望む友人達と交流し、望む女性と親しくなれる。多額のギャラの代償は私の全てを放映することである。私は売れない俳優だったが、皮肉にも演技をしない私自身が視聴者に最も好まれることになった。この首輪は私と世界をつなぐ濃密な首輪である。