悪夢の色

行きつけの画材屋で”悪夢”と書かれた絵の具を見つけた。
店主も「そんなものは知らない」と言い、気味が悪いからと私に押し付けた。
悪夢か…どんな色をしてるのだろう？チューブから出るそれは無色で、糊のようにも見える。
面白い事に悪夢は他の絵具と混ぜてもその色が薄くならない。これはいい。高価な絵の具は悪夢で増やして使おう。
そうして描いた私の絵画は展覧会で多くの人の目を奪った。皆が私の絵の前で足を止め見つめる。
「これは青か？」「金だろう？」「俺には黒に見える」
私の絵は見る人によって色が違って見えるらしい。
己の見ている世界が他人と全く違うものである事に気付き、皆は恐怖する。
私もまた、自身がそれを何色で描いたか分からなくなっていた。
故に注目は集まるが誰も購入しようとはしない…ああ、確かにこれは悪夢だな。
試しに悪夢だけで絵を描いてみた。私には真っ白にしか見えないそれが多くの人の心を壊した。