想いの配達人

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「色んな人の想いを運んでいるんだ」
10年ぶりの同窓会。「仕事何してるの?」と聞いた私に彼はそう答えた。
「ただのバスの運転手だよ」とポカンとしている私に彼は言った。「バスってさ、老若男女様々な人が乗るでしょ。フラれて落ち込む学生に育児に悩む父親、夕食の買い物帰りでルンルンな母親に仲良しな老夫婦。誰一人として同じ想いをもった人はいない。そういう色んな想いがバスには詰まってるし、その想いを目的地まできちんと届けるのが僕の役目なんだ」
「かっこいい」
大袈裟かなと彼はグラスに入ったコーラを飲み干す。照れると飲み物を飲む癖は昔から変わっていない。
「あなた、私の初恋なの……。実は今でもね——」
「あ、ありがとう」彼はコーラを飲もうとしたがグラスが空なことに気づいて、その後自分の左手薬指の指輪に目をやった。
「今日車なんだけど……君の想いも、僕が家まで届けるよ」
相変わらず、彼は、優しかった。
その他
公開:22/02/04 17:00
同窓会 初恋

雪宮冬馬

日本生まれ日本育ち。年齢約20代。まだまだこれからの男です。
noteでもショートショート書いてます。
よろしくお願いします。

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