冬の楽しみ

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「髪の毛乾かしてー」
そんな気だるげなことを言いながら、ドライヤーを持って現れた娘。風呂上がりの髪は濡れたまま。
「高校生にもなって何言ってんの」
「良いじゃん。このまま自然乾燥でも良いんだけど」
「風邪引くでしょ!ほらもう、貸しなさい!」
ドライヤーを取って、コンセントを挿して温風を出す。
いつの間にか伸びた娘の髪は、水分をたっぷりと含んだままだった。
「しっかり拭いたの?」
「拭いた拭いたー」
「まったく……」
溜息をつきながら髪を乾かしていく。ふと見ると、娘は気持ちよさそうに目を閉じていた。普段は小生意気だけど、冬に、髪を乾かしてと言ってくる姿は昔と変わらなくて、微笑む。
(まあ、たまにはこんなのも悪くないわね)



母が私の髪を乾かしている。温風の音に混じって、母の鼻歌も聴こえる。
(冬に私の髪乾かすの、好きなの知ってんだから)
ボソリと呟いた声は、ドライヤーの音にかき消された。
その他
公開:22/02/01 10:30

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