命の選択

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十歳の誕生日に入院し、手術をした。
手術するか否かは、選択できるらしい。

二十歳。
「努力すれば報われる、なんて嘘だ」と、母を怒鳴りつけて家を出た。
夢も希望も持てない世の中。
このまま、ここから飛び降りようか。
まだ夢は持ち続けていいのか。
ふたつの気持ちを行き来していた時、足を滑らせた。
わぁ……
地上までの時間は想像よりも長かった。
冷静に考えれば、母としては子供に「努力は無駄」なんて教えられるはずはないのだ。
悪態をついたこと、ひとこと謝りたかった。
ごめん。

ドスン、コンクリートの地面に叩きつけられた。

生きていた。
僕の中からエアバックが飛び出しダメージを最小限にしてくれたからだ。
十歳の時の手術は、体にエアバックを埋め込むものだったらしい。

夢も希望も持てなくなった世界で、これは命を守る選択だった、と母が泣き顔で言った。
その他
公開:22/02/02 20:06
更新:22/02/02 21:00

風薫

第二の人生の趣味探しをしています。
老後、寝たきりになってもできる趣味探しをして、超ショートショートに出会いました(笑)(泣)
 

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