ピョル

2
5

「あともう一曲聞き終わるまで、息をしていよう」
息をするだけで、全身が引き裂かれそうなピョルは、深く優しい歌声に何度も誓い、やがてカーテンがうっすらと光を帯びる頃、やっと浅い眠りについた。


ピョルは、もう何年も、消えてしまいたい衝動と闘っていた。それが実行されなかったのは、その瞬間に電話のベルが鳴ったり、風が吹いたり、人に押されたり、深刻さからは程遠い、物理的偶然によるものだった。


眠りから覚めて、何気なくテレビのスイッチを入れると、さっきまで聞いていた優しい歌声の主が、今朝方、死んだと言っている。ピョルは、歌声の主から、受けることしかできず、彼を独りきりで逝かせてしまった。


10年後、ピョルは、歌声の主の墓前にいた。彼の国の言葉を学び、感謝を伝え、そしてその言葉で、翻訳の仕事を始めていた。

ピョルの命は、彼の歌と魂と言葉で、繋がれた。
そして、これからもずっと。
その他
公開:22/01/30 01:24
更新:22/01/30 08:31

kidohe

「蝋燭」が人生初作品、初投稿です。
よろしくお願いします。

普段は、韓国(アジア)ドラマ・映画の字幕監修者として働いています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容