海老女

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 ある所に海老ばかり取る漁師がいた。怒った海老たちは男を呪うことにしたが、男は独り身であったのでやむなく隣家の若い夫婦に呪いをかけた。
 夫婦は子を授かったが、その女児は産まれてみれば舌が海老、口を開くと裏返しで腹を見せ足を蠢かせ、舌先から飛び出た目と触手、まさか八つ当たりで呪われたとは知らず、二人は子の不憫を嘆くばかりであった。
 女児は舌が海老であること以外は至って健康に育ち、県内の公立高に進学したが、ある男子が彼女の舌に夢中になってしまった。彼女の口中で跳ねる海老を想い恋焦がれ、告白するも、あえなく振られ、傷心の男子は自殺した。
 葬式に訪れた彼女は死体の口に己の舌を突っ込んだ。たちまち彼女の舌が男子の舌を貪り食う。
 若い頃って何がしたかったのか自分でもよく分からないよね、と酔っ払って昔話をする彼女の舌裏には、腐りかけの舌を食べた痕が、どす黒い海老の背腸になって、今でも残っている。
その他
公開:22/01/31 01:14

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