りっぱなスリッパ

2
2

家の住民が寝静まったころ、下駄箱のスリッパたちは、誰がいちばん立派なのか、話し合っていました。

最初に名乗りを上げたのは、牛の皮のスリッパです。ろうそくの灯りに脂がてらてらと輝いて、風格を漂わせています。

薔薇のスリッパも負けていません。本物とみまごうような見事な刺繍。絹の糸をふんだんに使って陰影を際立たせているのです。

毛皮のスリッパは、吸いつくような手触りのミンクを贅沢に使っています。凍てつく日でも足先は春の暖かさです。

スリッパたちは激論を交わしますが、なかなか決着がつきません。

そこにネズミが通りかかりました。スリッパたちは、待ってましたとばかりに話に引っぱりこみます。ネズミは少し考えて言いました。

「いちばん立派なのは、玄関にぬぎっぱなしの布のスリッパさ。ごらんよ、あんなにボロボロで。誰よりも人間の足を守ってきた証拠じゃないか。ちゃんと役目を果たしているんだよ」
ファンタジー
公開:22/01/30 23:10
更新:22/01/30 23:28
駄洒落

エス氏( 青森 )

落語とか漫才とかが好きなので、クスッと笑えてオチが綺麗なものを書こうと頑張っています。
よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容