みちょっぺ

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波間に見え隠れする岩場に父によく似た灯台がある。
私は船で隣の島にある高校に通っている。自転車がニ台乗るだけの通学フェリーは漁船を改良したものだ。
過保護な母は毎日欠かすことなく私を見送り、毎日欠かすことなく紙テープを私に投げる。まるで私が客船で外国に旅立つような大げさな手振り。紙テープを手繰って船を行かせまいとするパントマイムもいつもの母のお約束。
「あなたの笑顔が超絶好きー」
と叫び、それでぷぃっと家に帰る仕草もいつものこと。結局私のほうが母の背を見送る。七時四十分。私は幼なじみのみちょっぺの隣に座る。
「おつかれ」
それがみちょっぺのおはようだ。みちょっぺはスマホを見ながらその日の話題を私にくれる。
「本当に食べどきのアボカドが今この国にいくつあると思う」
「五千個くらい」
「八つよ、八つ。その数が国力を表すの」
「へぇ」
父によく似た灯台が叔父さんに見えたあたりで船は隣の島につく。
公開:22/01/28 11:33

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