どら焼きとドラ息子

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「帰りにドラ買っていこう」
山田さんは一代で会社を築いた企業家で去年私の勤める介護付き老人ホームに入居した。
「あ、お気に入りのどら焼きですね」
少々独特な省略も長年の企業家人生の賜物か。
車椅子を止め、池の方に顔を向けブレーキを掛けた。
「ここ自然が多くていいですね」隣のベンチに腰を下ろす。
「もうエコは良くないな」
「時代に逆行するような事言って。社長らしくないですよ」
「鼻摘みの会長じゃて」今は娘夫婦が社長職を継いでいる。
奥様に先立たれ独り暮らしだったが病で倒れ要介護になったのが入所の理由だ。娘夫婦は一度も面会に来ていない。

「息子さん今日もお越しですね」
同じどら焼きの紙袋を持った男性がホーム玄関に立っていた。
噂じゃ会社を継がず芸術家を志し勘当されたとか。
「ドラの分際で」
ドラ…
今のはドラ息子か…あ。

「確かにもう依怙贔屓はダメですよ!」
そだなと微笑む横顔が見えた。
その他
公開:22/01/28 11:13

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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