おくれ猫

就職の為、一人暮らしを始める俺に母は”招き猫”ならぬ”おくれ猫”を持たせた。
おくれ猫は招き猫と違い、頂戴と言わんばかりに手を出している。腹の立つ顔をしているが憎めない逸品だ。
おくれ猫は給料日に「おくれ、おくれ」と鳴き始める。
金を渡さないと鳴き続けるし、おくれ猫を捨てようとすると引っかいたり噛みついたりしてくる。まるで呪いの彫像だ。
だが渡した金は実家に送られていると知り、それなら仕方がないか…と納得した。
そんな僕にも結婚を誓う彼女が出来た。
おくれ猫は彼女を見るや金の無心をしなくなった。僕の通帳を彼女が管理し始めた事をどうやってか知ったらしい。
それどころか結婚式の計画を立て始めると今まで僕が渡してきたお金を使えと言わんばかりに彼女に渡してきた。
そのお金で僕らは結婚式を挙げ、夫婦となった。
あれから５年。
おくれ猫は産まれたばかりの初孫の写真を「おくれ、おくれ」と毎日鳴いている。