短編人生

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原稿用紙に向かって学生達は苦悶していた。
書いては消し書いては消しを繰り返す。

「自分の人生を原稿用紙1枚で表現しなさい」
大学教授は生徒に一風変わった課題を出した。
「未来の事は創作でかまいません。しかしゆりかごから墓場までを描く事が単位取得の条件です」と添える。
いざ書き始めると400字という制限の難しさに驚愕する。
思い巡らせば無限に湧き出る思い出。
思い馳せれば無限に膨らむ将来の夢。
「とても収まらない…」と誰かが呟き、皆も心中で頷いた。
つい何を書くかが人生の選択に重なり
取捨の天秤は激しく動き、悪戯にペン先を鈍らせた。

1人の生徒がすくと立ち教壇へと歩み出た。
「早いですね。どれ」と教授は目を通す。
「良い人生ですね。短く纏めるにあたり何を捨てましたか」
生徒は眉間に皺を寄せ
「しいて言えば…迷いを捨てました」

ハッと空気が揺れ、
教室にカリカリと人生の動き出す音が響く。
その他
公開:22/01/20 13:53
更新:22/01/20 19:34

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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