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赴任先の新駅がこんなにさびしい所だとは思わなかった。駅舎やホームや跨線橋、そのすべてが萌黄色のプラスチック造り。周辺には黄色い雪が降り積もり、静寂だけが同僚だ。仕事内容はまだ聞いていないが春には後任が到着するらしい。
このあたりは峰高山麓の穏やか人保護区が近く、新駅は彼らの輸送用に建てられた。ただ最近は列車が入線しても乗せる幼児が揃わない。今が捕縛の最盛期なのに保護区の森に幼児はおらず、捕縛係の嬢山さんは絶滅を心配している。
嬢山雄汁さんは穏やか人を捕縛するカンガルー属の獣で通称お嬢さん。森を駆け巡る生きのいい幼児だけを都市部に送り、国を支える28獣に選ばれたこともある。すでに人間女性の絶えたこの国で言語能力の高い穏やか人の幼児は貴重な人材。
「泣き声の響かぬ駅舎は鳥のいない森と同じだ」
嘆く嬢山さんが私の頬を齧る。
何かできることはないか、嬢山さんに咽喉を食べられながら、私は考え続けた。
公開:22/01/20 12:24

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