小説家の人々

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吾輩は猫である。小説家(け)に間借りしている。この家の者はよく論争する。
今日は長女のスイリが冷蔵庫に保管していたプリンが消えたというのでひと悶着あった。
「犯行は私が出かけていた間に行われたわ。その間のアリバイが無い人は?」
憤るスイリに、祖父の歴史郎が反論する。
「孔子は言った。罪を憎んで人を憎まずと。怒りは最大の敵とは徳川家康の言である」
弟のエンタが身を乗り出す。
「めんどくせーから、殴り合って1番弱かった奴が犯人ってことにしよーぜ」
母の恐子はぶるぶる震えている。
「これは霊の仕業よ。うちに恨みを持つ者が災厄をもたらそうとしているのよ」
「あらゆる可能性を検討しよう」
と言ったのは父の科学郎。
「まず“目に見えない”ことを“消えた”と定義した場合、プリンが素粒子に分解されたと考えると…」
その後も延々と続いた。なぜ人間はこんなことで争うのだろう。ネコ缶の方がよほど美味かったが。
ミステリー・推理
公開:22/01/21 20:46
更新:22/01/22 09:05

エス氏( 青森 )

落語とか漫才とかが好きなので、クスッと笑えてオチが綺麗なものを書こうと頑張っています。
よろしくお願いします。

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