逃亡者

ずっと、逃げてきた。
人間関係が怖くて、学校から逃げた。
家族が嫌で、親から逃げた。

「卑怯者」
「意気地無し」
「弱虫」

まるで、悪者みたいに周囲の視線が刺さる。何も、悪いことなんてしていないのにさ。
だって、
イジメが辛くて、学校から逃げたから。
虐待が辛くて、親から逃げたから。



『だから、僕は、今生きています』

マイクの前で、そう話す。
目の前の子供達は、真っ直ぐに、僕を見つめている。

『イジメが辛くて逃げました。死ぬのも怖かったから、死ぬことから逃げました。虐待が辛くて逃げました。一人じゃ生きられないと思って、一人から逃げました。そして警察に保護された僕は、今日この歳まで生きることができました』

夢も、将来も、生きていなければ、見られないから。

『だから逃げてください。生きることからだけ、逃げないように』

かつての母校で行ったスピーチは、子供達に届いただろうか。