時計と記憶

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事務所で一人、今度の舞台の練習を続ける。
ここにいるのは俺一人。だが、俺は多くの視線を感じている。
この視線は虎のものだ。虎の視線に対し、一瞬でも気を抜いてしまえば俺はきっと食われてしまう。
舞台の代役を狙う虎共の餌食となってしまう。そうならないよう、俺は演技を磨く。
舞台に立てるようになって早5年。牛の様にどっしりと構えられるようになるまではまだまだかかる。
まだ演技を記憶に頼ってしまう。それを経験で自然に演じられるようにならなければならない。
時計の針が進む。俺の演技力も一歩ずつ進んで行く。
進んで行く度に虎の視線が遠ざかって行く。
虎の視線は後輩達の目であり、お客さんの目であり、俺の目でもある。
虎視眈々と狙いを定め、目的にゆっくりと近づいていく。
もうすぐ年が明ける。6年目に突入だ。
時計の針は決して前には戻らない。俺は止まらない。記憶と経験を糧にもっと前へと突き進んでやる。
公開:22/01/16 20:41

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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