いない世界

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 頭上高く生い茂る木々は、日の光を遮り、さながらトンネルのようだった。
 飽和した湿気は絨毯のように広がる苔の上を球状になって転がる。立ち込める土の匂いは、カビくささを織り交ぜながら、時に強く、時に弱く、一定のリズムを刻むかのように鼻腔を通過していく。

 私の小さな足を苔の絨毯が包み、思わずよろけた。慌ててバランスをとる。歩くのは久しぶりだが、もう少し歩いてみたい。

 鬱蒼とした木々のトンネルを抜け、振り返る。巨大な四角柱にたくさんの植物が巻き付き、しなり、それが重なり合ってトンネルのようになっていた。
 これはかつて「ビル」だったものだ。と、誰かに教えてもらったことがある。

 羽を広げ、トンネルの上まで飛んでみた。
 見渡せば、植物に覆われた大地の所々に崩れゆく不自然が混在している。
 少しだけ冷たく、しかし、澄んだ風が吹き抜けていった。

 ここは人間のいなくなった世界。
その他
公開:22/01/17 23:12

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
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