時計と記憶

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「お前さんの落語はコピーだ。お前さんの味がしない噺に何の価値もない」
師匠の言葉に心が折れる。落語が好きでこの世界に飛び込んだ。師匠達の落語を聞き、全て憶えた。
口調、間、雰囲気、どれをとっても完璧に演じられる自信があったがその自信が仇になった…
私の落語はコピーに過ぎない。その通りだ。私は師匠達を敬愛するあまり、自分というものを消してしまっている。それでは私に価値がない…
だから私は落語家を辞める決意をした。
「馬鹿野郎!ここまで来て何で辞める!」
師匠に激怒された。
だって、私の噺はコピーでしかないんです…そんな私に価値なんて…
「あるじゃねえか。お前さん、時間ぴったりに落語の説明が出来る。それを活かして、好きな落語の好きな話をすればいい。いいか、この世界はな、好きがないとやっていけねぇぞ!」
師匠の言葉を受け、私は落語への愛を落語にした。
今日も時計を見ては時間ぴったりに噺を終えた。
公開:22/01/17 20:43

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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