永遠とか

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それは美しい泥棒だった。泥棒は私が寝ている間に部屋に入りこみ、天井に映し出された相撲中継を寝転んでみていた。缶ビールにピザとポテチと芋けんぴ。くつろぎかたが尋常ではない。この部屋の住人である私より今を楽しんでいる。御嶽海が若隆景を厳しく寄り切ったそのとき、おおぅ、と残念そうに声を漏らしたその泥棒は若隆景のファンだろうか、ポテチの塩に反応して溶けゆく指が流星のように綺麗。
泥棒には洗練されたカフェのような気配がある。長い髪をニットに編みこんで全身を包むそのおしゃれさに泥棒と叫ぶ気はしない。何でも持っていってくれて構わない。食べて飲んでくつろいでほしい。名前はなんていうの。人を殺したことはあるの。はしゃぐ心に質問まで踊る。
やがて泥棒は部屋が汚い不用心だと私を叱り、その理不尽に充たされた私は私の土俵に泥棒を受け入れる。私の中で溶けゆく罪は星のように瞬き、横綱が塩を撒く大地に夫の帰宅を視認した。
公開:22/01/12 12:37

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