名もなき花の話

「この桜並木道の桜には全て名前がついております。まず私達を出迎えてくれたこの大きな桜。樹齢百年を超える長寿桜。健康長寿の御利益がありますよ。
その長寿桜に寄り添う桜は金剛石桜。夫婦愛に御利益があります。
そこから子宝桜、成長桜、運動桜、勉強桜、勤労桜…金持桜や才能桜もあります。
この桜並木道に与えられぬ御利益はございません」

今日も眼下の並木道、多くの人間が桜に祈りを捧げている。桜達は大変だな…
人に願われ、叶えば良し。しかし叶わなければ暴言を吐かれ、傷をつけられる。それが原因で枯れたものもいる。
枯れてしまったら次の桜がすぐにやって来る。やれやれ…これではまるで生贄だ。
そんな桜達が１日でも長く元気でいられるよう私は願っている。
そうさね…私はあの若木を支えてやろうか。山から切り出された木である私。
桜に負けぬ美しい花が咲くも、人には名を知られる事なく、桜の支え木として利用されている。