百年後のために

　百年後のために今を残す、と言って、ヨシちゃんが写真に凝りだした。私がコーンフレークを食べているところを撮ったり、私が電車の時刻表を見ているところを撮ったりしていた。今は、アスファルトの上に突然寝転んで、低いアングルから真っ直ぐ伸びる道を撮っている。服、汚れるよ、と言うと、なんのこれしき、と立ち上がりながらヨシちゃんは言った。私はヨシちゃんの肘についた砂利を、パッパッと払ってあげた。骨を感じた。
　ヨシちゃんが写真を撮る姿を横で見ながら、私は鞄からボールペンと手帳を取り出して、白紙のページにこう書いた。
　百年前、今を残す手段は写真でした。