誕生と蒼白

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「痛い、痛ーい」
大絶叫と共に長男坊が産まれた。
当然、頭位で産まれてきたのだが、右手は真っすぐ伸ばし、左手は胸の前に曲げていた。
まるで、ウルトラマンが地球にやってくる時のポーズだった。
産まれてきた我が子への妻の最初の言葉は
「顔がガッツ石松似だ」で、大笑いで言った。
分娩後の出血が多い。かなり深い頸管裂傷であった。妻の顔がみるみる蒼白になっていった。
裂傷部分の縫合中、意識はしっかりしていた。
ガッツ石松似の我が子を抱きしめる妻が私に向かって震えるような声で言った。
「この子の左手の爪、鋭く伸びているけど」
「赤ちゃんの爪は伸びてるけど、柔らかいよ。」と私は妻に返答した。
「そうなの。でも右手の爪は伸びてないよ。左手の爪は凄い硬いよ。」と妻は小声で答えた。
(もしかして、長男坊は笑われるのを予想して、妻の頸管を切り裂き、前もって仕返しをしたのか)
と私は長男坊が怖くなった。
その他
公開:21/09/11 19:29
更新:21/09/13 14:40

ひまわり広場( 神奈川県川崎市 )

産婦人科専門医/指導医
@sanadakuma
tama-himawari3w.com
身体は日々の食事で出来ている。
妊婦さんにも食事の重要性について情報提供しています。
ダイエット中の方々にも食事・睡眠・運動の重要性について情報発信しています。
自身が「愛着障害」であることに気付き、もう一人の自分と上手に共生しています。
自分が、自分の『安全基地』になることが生きていくための拠り所なのかもしれない。
科学的な視点からの表現も交えて、ショートショートストーリーを作っています。

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