拳　～こぶし～

昔は言っても分からん奴は殴って言う事を聞かせていた。憎い上司の横っ面をいつかぶん殴ってやろうと息巻いて仕事していた。
そんな血の気の多い奴らで社会は回っていたんだ。今では考えられんがな。
儂もまた、そんな血の気の多い一人だった。未だについカッとなって手を上げてしまう。それを振り下ろせば、儂は訴えられるだろう。
そこで儂は”振り上げた拳を収める箱”を開発した。箱の中に振り上げた拳を収納していく。
当然、怒りの籠った拳などどこも引き取ってはくれない。だが使いどころがないわけではない。
儂は朝礼で社員全員を集め、これからの方針・仕事・その他諸々を言って聞かせた。
「何か言いたい事がある者はいるか？」
最後にそう言うも誰も何も言わない。今まではな。
儂は拳を収めた箱をそっと開けた。
ぽつぽつと手が上がる。儂のやり方に異を唱えようと怒りで己を鼓舞したようだ。
やはり、仕事はこうでないと面白くないな！