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「メンチカツ、ひとつ」
閉店間際、見知らぬ男が入って来た。俺と同じ五十代か。
俺はメンチを揚げてやると、男は揚げたてのそれをソースも何もつけずにザクリと頬張り、目を見開いた。
親父は元肉屋で、俺が地元で居酒屋をやるって時に、メンチの作り方を教えてくれた。肉屋直伝の味って事で人気の一品だ。
「…俺の生まれた家は、貧乏で」
男は静かに語り始めた。
「小さい頃、肉屋にクズ肉をもらいに行ってたんだ。店の人が、息子と同じくらいだっていう俺に、美味いもの食わせてやるって、何度もメンチをくれて」
俺は男の話に耳を傾ける。
「ソースなんて上等なものはうちには無かったけど…あのメンチは、美味かった」
「俺の親父は昔、肉屋をやっててね。よく言ってたよ。俺と同じくらいで、メンチが大好きな子がいるって。きっとまた来るからメンチを続けろって、親父が教えてくれたんだ」
男は涙声で、美味いと子供のように繰り返した。
閉店間際、見知らぬ男が入って来た。俺と同じ五十代か。
俺はメンチを揚げてやると、男は揚げたてのそれをソースも何もつけずにザクリと頬張り、目を見開いた。
親父は元肉屋で、俺が地元で居酒屋をやるって時に、メンチの作り方を教えてくれた。肉屋直伝の味って事で人気の一品だ。
「…俺の生まれた家は、貧乏で」
男は静かに語り始めた。
「小さい頃、肉屋にクズ肉をもらいに行ってたんだ。店の人が、息子と同じくらいだっていう俺に、美味いもの食わせてやるって、何度もメンチをくれて」
俺は男の話に耳を傾ける。
「ソースなんて上等なものはうちには無かったけど…あのメンチは、美味かった」
「俺の親父は昔、肉屋をやっててね。よく言ってたよ。俺と同じくらいで、メンチが大好きな子がいるって。きっとまた来るからメンチを続けろって、親父が教えてくれたんだ」
男は涙声で、美味いと子供のように繰り返した。
その他
公開:21/09/06 18:00
2021年7月、投稿開始。
小説を読むのが好きですが、書くのも楽しそうで始めてみました。
読んでいただければ幸いです。
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