くじらラジオ

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今日もリスナーさんのために楽曲を提供しなくてはならない。そして心の安らぎも。

「次は名もなき船長さんのリクエストで雪と花火と魂」

堅い骨格に囲まれた空洞の中で、曲をアカペラで歌う。ここはくじらの副鼻腔。骨を伝わって響き渡る私の声。果たして何人の人が消化されずに聴いているのか。

リスナーは皆くじらのお腹の中にいる。胃袋で溶かされる前のひと時を、人生最後の時間を好きな歌で癒しつつ送りたい。

そう考えて私は胃袋から血管を抜けて放送室にたどり着いた。

私だって大変だ。栄養はそこらのクジラの肉からつまみ食い。

でもそろそろ限界かもしれない。

栄養の偏り、運動不足。なにより頻繁に起きる酸欠。
よくここまで持ったものだ。

私がいなくなれば、このくじらラジオも終わる。
閉ざされた世界でのひと時の救い。
その歴史さえも、誰も知らないし、どこにも残らない。

全ての飲み込まれた人たちに幸あれ。
ファンタジー
公開:21/09/04 20:07

三田シャケ

がんばってたくさんの作品を書きたいです!
よろしくおねがいします。
 

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