イヌビトタヌわさび

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島を出る覚悟で私は飼っていた猪や鹿を丁寧に洗った。森に飼獣を放ち鳥葬していた父の骨を葛山の崖から海へと還す。私を監視するドローンは年々昆虫化が進み今はタマムシほどの大きさで音もなく生活空間に現れる。私を殺すつもりならとうに手を下しているだろう。監視生活はもう10年になる。父はイヌビトとして生きることに苦しさを感じ新潟のタヌキと関係して人類の血を薄めた。そもそもイヌビトは人類を癒すために交配された従順な種。父の行為は重罪とされイヌビトタヌである私はこの島に封じられた。イヌビト蝶やイヌビト杉。父はアグレッシブなイヌビトだった。この地に流されたイヌビトは代々貴重な水源とわさび田を野生動物や地球外生物から守ってきた。美しいわさびにはみほとけのような清らかさがあって、森でひとり鮫皮に円を描きおろしていると汐が満ちひくような宇宙との繋がりに血中の新潟が昂る。私はわさびを抱いた。もう島には居られない。
公開:21/09/04 09:29

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