映現機

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「行ってみたいところがあってね」
発明家の博士が助手の私を誘ってきた。
博士は、研究室に映写機のようなものを設置すると、古そうなフィルムをセットした。
「これは、フィルムに現像された静止画を現実に映すことができる『映現機』という機械だ」
スクリーンにモノクロの映像が映し出された。
「この塔が映っているところに行ってみよう」
博士と私は、スクリーンの中へ入ると、急に空間が広がり、先ほど映っていた映像が実際の光景としてカラーで目の前に現れた。
「ここは大正時代の浅草で、この塔のような高層建築物は凌雲閣と呼ぶんだ」
日本初という電動式エレベーターで凌雲閣の最上階へ昇ると、綺麗に富士山が見えた。
「この眺望を一度見たくてね。そろそろ凄惨な場面に変わって危ないから戻ろうか」
博士が手元のリモコンの停止ボタンを押すと、元の研究室に戻った。
「凌雲閣は、この直後に発生した関東大震災によって崩壊するんだ」
SF
公開:21/09/04 07:00
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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