マリトッツォがくる

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マリトッツォはこちらです。
そんな看板に誘われて桜川の商店街を脇道に逸れるとそこには美しい森の入口があった。唐突に現れた大自然に私の口はぽっかりと開いて、胃袋でひと夏を過ごしていたセキレイやクマゲラが一斉に羽ばたいていった。さようなら。私は夏の鳥に別れを告げてマリトッツォ、秋の訪れを祝詞のように唱えた。
森の中には交通安全週間になるとおじさんやおばさんがただ座って喋っているタイプのテントが張られていて、それがマリトッツォ会場のようだった。来場者には卵を1パック差し上げますとあるからまず間違いないだろう。その会場にはマッサージチェアで揉まれているマダムが数人いて、もれなく卵を胸に抱いている。雛に孵すことができれば5万円分のお食事券が貰えるらしい。
受付の少年によるとマリトッツォは船でこちらに向かっているという。船便なら安心だ。私は到着を待つ間に卵を温めながらマッサージチェアを分割で購入した。
公開:21/09/02 13:21

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