99メートル

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彼は陸上99メートル走の世界記録保持者だ。タイムは7秒58。世界記録と言っても彼しか99メートル走の選手はいない。誰もが彼に100メートルへの転向を促した。彼が100メートルを走ったら世界記録更新は確実なのだから。皆が、彼を説得した。しかし、彼は頑なに断った。彼には美学があった。99メートルの美学。何としても彼に100メートルを走らせたい。皆が、画策した。そこで思い付いた作戦は彼には99メートルと騙して100メートルを走らせること。彼が気付かずに走りきれば、自動的に新記録更新。という手筈だった。試合本番の日。たくさんの観客。皆、固唾を飲んで見守った。号砲が鳴った。彼は物凄いスピードでスタート。あっという間に90メートル付近へ。誰もが世界記録更新を疑わなかった。その時だった。彼が何かに気付く。突然のブレーキ。ゴールの1メートル前で、彼は止まる。そして「騙したな」と、叫んだ。観客は落胆した。
その他
公開:21/08/31 11:40

ソフトサラダ( 埼玉 )

時折、頭をかすめる妄想のカケラを集めて、少しずつ短いお話を書いています。コメントは励みになります。

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