暗い港

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暗くて小さな港だ。俺は人の列に並んでいた。列の向こうには何艘かの漁船が停泊する。列がしずしずと海に向かう。俺たちはどれかの船に乗らなくてはいけないらしい。みんな口々に船の噂をしている。船の側面の名前を読んでみた。「かねさん丸」「あかね丸」「ハチドリ」「ミトコンドリア」・・。新しい船や古い船が十艘くらい。
列が進む。列の先には受付係。木製テーブルに黒服の男が書類の数字を数えたり記帳したりしている。周りには助手らしい数人がせかせかと動き回る。黒服は一人一人に質問しては了解したポーズで目当ての船に指を差す。漁船は大きさもデザインもいろいろ。出航するのか帰港したばかりなのか。行き先もわからない船。とにかくみんな乗らなければならない?と俺は前の男に言ってみた。彼は目を丸くして言った。「船にも乗るのが嫌なら選択肢は二つ。冷たい海に歩いて入るか、列の最後尾に回るかだ。あ、あの受付の助手になる手がある」
その他
公開:21/08/31 07:38

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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