曇りのち晴れ

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 よく思っていない年上の従姉妹から木箱に入った布製の人形が送られてきた。手紙も何もついていない。実にあの人らしいと諦めて電話をかける。
「もしもし。ゆたかちゃん?」
「届いたのね」
 低く刺々しい声が返ってくる。
「この人形なんなの」 
 電話の向こうで小さくため息をついたのがわかった。
「ねえ」
「それ、アンタが貰う筈の人形だったの。いつもアンタばかり可愛がられてーー隠したままになってたの。返したから」
 一方的に喋って電話を切られた。電話に出てくれただけでも良しとしなければと、目を瞑り心を整える。子供の頃からの対処法だった。
 人形は一度も使われた形跡もなく、綺麗な三つ編がきちんと両肩に揃えてある。ゆたかなりの罪悪感で人形を眺めていたに違いない。
 私はこの人形をバザーに出すことにした。きっと可愛い誰かが抱きしめ撫でてくれるだろう。窓辺で眩しそうに人形が瞬きしたように見えた。
 
その他
公開:21/08/29 15:19

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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