物騒な金物屋

「旦那を殴るのにちょうどいいフライパンはないかしら」
やれやれ、今日もまた鼻息の荒い客がやってきた。年は３０代半ばといった風情だ。最初は面食らったが、最近はこうした物騒な客を相手するのにもすっかり慣れた。
「当店は金物屋ですので、人を殴る凶器は取り扱っておりませんが、どのようなフライパンをお探しですか」
「この店にとっても硬いのがあると聞いたんですが」
「ええ、ございます。こちらはいかがでしょうか」と私は壁に掛けた鉄製の品を女性に見せた。「アルミ製と比べると重量はありますが、強度は抜群です」
「うわ、重い。これを旦那の頭めがけて振り回せば一発ね。これください」
購入を即決した女性の目は血走っていた。
「鉄のフライパンは傷に強く、サビや焦げも落とせます。きちんと手入れをすれば夫婦と一緒、一生ものなんです。だから大事に使ってくださいね」
私は毎回そう言って、焦げ付いた夫婦の関係修復を願うのだ。