トロピカルな記憶

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「あんた遅刻するわよ」
母さんの怒号が響く。急ぎ足で玄関を出ると、椰子の木が離れのおばあちゃんの家に運ばれていた。
何かの間違いだろうと思っていたが、帰宅すると門松の様に椰子の木が2本、玄関脇に鎮座していた。

どうして椰子の木が、と親に聞いてみるとお婆さんが勝手に注文したようだった。
おじいさんが亡くなってから痴呆が進んだのだと父は言い、痴呆とは記憶や感情が壊れる事だとネットに書いてあった。
次第に学校でも椰子の木は話題となり、お婆ちゃんはトロピカル婆さんと命名された。
日を追うごとに痴呆は進みハワイ化も加速していった。僕はその光景をみて痴呆は嫌なものだと思ったけど、何故だかお父さんは微笑ましそうに眺めていた。

2か月後、お婆ちゃんは亡くなった。
死後、家の整理を手伝っていると本棚からフォトアルバムが出てきた。
埃を払い開くとそこには、若い男女が過ごした常夏の思い出が記されていた。
青春
公開:21/08/26 08:57
更新:21/08/26 14:36

太郎犬( 日本 )

読書量も文章力も想像力もまだまだですが、ちょっとずつ投稿していきます。
コメントいただけると嬉しいです。
 

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