名もなき花の話

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親父の後を継ぎ、花火師になると決めた俺は厳しい修行を積んでいる。
花火師に妥協は許されない。油断は命取りとなる。危険な仕事である事実を心身共に刻み続けた。
ある日、親父が俺に見せたいものがあると言ってきた。
親父に連れられて来た裏山の洞窟。ガスのようなニオイが漂い、本能が危険だと警告してくる。
火器厳禁だと告げ、暗闇の中へと歩き出す親父。口元をタオルで塞ぎ、その背中を追った。
…どれほど歩いただろう?気分の悪さを感じ始めた頃、ついたぞと親父が言った。
思わず立ち尽くしてしまう。暗闇に慣れてきた目が強烈な光によって焼かれる。
地下の大空洞。そこには燃え盛る花が咲き乱れていた。
燃え尽きる事のない花は色とりどりの火花を散らしているではないか。
あれは何だと父に問うと、名もなき花だとだけ返された。
それだけで十分だ。あの花こそ、花火師が目指し作るべき芸術だと確信した。
そんな俺を見て父が笑った。
公開:21/08/25 20:26

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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