名もなき花の話

父の眼鏡を壊してしまった私は、庭に埋め証拠隠滅を図った。
「あれ…眼鏡どこに置いたっけかな？」と探す父に内心ドキドキだった。大丈夫。バレていない。
１週間後、父の眼鏡を埋めた場所に植物の芽が生えていた。その時は特に気にしなかった。
１カ月後、その植物は父の眼鏡の形そっくりに育っていた。それを見つけた父はホッとしていた。
「あの眼鏡、古くなっていただろう？だから種眼鏡にして新しい眼鏡を育てようと思っていたんだ。そうか。置き場所を忘れたんじゃなくて、植えたのを忘れていたんだ」
父は機嫌よく去っていった。
理屈は分からないが、どうやら私が壊した事実はなかった事になったようだ。ホッとした。
翌日、私は父に怒られた。眼鏡を壊した事がバレてしまったからだ。
眼鏡植物の隣に数カ月前、私はうっかり壊してしまった防犯カメラを埋めていた。
それが私の犯行を録芽していた。名もなき花に映る私の犯行を父に見られた。