ずっとだけど

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奥多摩に残る廃線跡を草刈りしながら歩くのもこれで何度目だろう。この森のどこかに今も鮎斗は隠れている。死んだとか行方不明とかそういうのじゃなくて本気で逃げまわっている鮎斗。いつも深夜に「今日も逃げきった」と電話がある。軽い気持ちではじめたかくれんぼが55年。鮎斗がこんなにも頑張り屋さんだったとあのとき知っていれば誘わなかったのに。後悔が北斎レベルの高波となって私の心にざっばーんとなる。地球上にひとりとして同じ人間がいないように私のためいきは世界にひとつだけのためいき。もううんざりだ。地域の方には捜索を頼み大変な迷惑をかけてきたし鮎斗のご両親はすでにこの地を離れた。私は鮎斗をかくれんぼに誘ったその罪を抱えて今日まで森で生きてきたがもう限界だ。死なない程度の毒餌や山焼きも考えなければならない。
駅舎の跡だろうか、朽ちかけた鏡に年をとった私と背中に覆いかぶさる鮎斗が映る。
「お前いつからそこに」
公開:21/08/26 12:09
更新:21/08/26 12:25

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