ドミノ倒し

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 早朝、私は一番乗りで図書館に着いた。何を隠そう、私はここの館長である。

 いつものように扉を開けると、足元に本が立てられていた。その後ろにも、そのまた後ろにも本が立っている。これはいわゆる「ドミノ」だ。書架にあった本は全て館内を敷き詰めるドミノの構成員になっている。誰かのイタズラだろうか。すぐに片付けなければ……

 本の行列は館内を廻り、最後には階段を上っている。二階にもドミノが続いているのだろうか。色とりどりの本が並んでいる姿は、まるで図書館全体が一つの色見本のようだ。

 これを倒したらどうなるのだろう――。

 無論、これらの本を倒すことは、司書として、本を扱う者として、許される行為ではないだろう。しかし……

 今なら誰も見ていない――。

 私は、ゆっくりと足元の本を指で小突いた。

 私の中にあったほんの小さな出来心は、パタパタと音を立てながら図書館全体に共鳴していった。
ファンタジー
公開:21/08/24 22:50

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