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散歩の帰り、路上で轢かれた蛇に蝶が群れているのを見た。
それは模様の無い揚羽蝶で、手向けの様に一頭また一頭と舞い降りては、拉げた蛇を覆い、傷口へ接吻するのだった。
弱くうねる蛇の下には、影とも血ともつかぬ黒いものが落ちていた。吸蜜の動きでひとしきり白い翅を揚げ下げし、やがて蝶は発って行った。
すれ違う翅が、微かに染まって見えたのは空目だろうか。
路上には蛇行する黒い痕跡が横たわり、鱗の模様をなぞる形で、桜真珠の色をした砂が散っていた。
食物連鎖の階層は、砂時計の様に呆気無く逆転するものか。
私は砂粒を搔き集め、帽子の山に抱いて帰った。
死出の床で、私は今、世にも美しい赤を見ている。
布団一杯に咲き誇る深緋。孵化と交配を繰り返した翅達が、焼け落ちそうな夕暮れに羽ばたいていく。
人の業そのものの色。私もあの紅蓮へ沈むのだ。差し伸べた腕はきらきら崩れ、上昇気流に乗って窓の外を流れて行った。
それは模様の無い揚羽蝶で、手向けの様に一頭また一頭と舞い降りては、拉げた蛇を覆い、傷口へ接吻するのだった。
弱くうねる蛇の下には、影とも血ともつかぬ黒いものが落ちていた。吸蜜の動きでひとしきり白い翅を揚げ下げし、やがて蝶は発って行った。
すれ違う翅が、微かに染まって見えたのは空目だろうか。
路上には蛇行する黒い痕跡が横たわり、鱗の模様をなぞる形で、桜真珠の色をした砂が散っていた。
食物連鎖の階層は、砂時計の様に呆気無く逆転するものか。
私は砂粒を搔き集め、帽子の山に抱いて帰った。
死出の床で、私は今、世にも美しい赤を見ている。
布団一杯に咲き誇る深緋。孵化と交配を繰り返した翅達が、焼け落ちそうな夕暮れに羽ばたいていく。
人の業そのものの色。私もあの紅蓮へ沈むのだ。差し伸べた腕はきらきら崩れ、上昇気流に乗って窓の外を流れて行った。
その他
公開:21/08/24 18:57
蝶の吸水
with梶井基次郎
『櫻の樹の下には』
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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