秘密

憧れの看護師になれたあの頃のきらきらはどこへ消えてしまったろう。

「終わったら焼肉でも」
目を見ず執刀医は言う。手術中によく焼肉の誘いなんてできるな。呆れてしまうが腕は確かだ。

「あなたはよくやってるわ。」
笑顔で看護師長が優しく肩を叩く。ミスにも目鯨を立てず丁寧に指導してくれる彼女は、夢描いていた看護師の鑑とも言えた。

セクハラ、パワハラ、看護師の仕事は想像よりも過酷だ。うまくやり過ごすのがコツだと教えてくれた先輩もずいぶん前に退職した。
人が消える”人喰い病院”なんて噂よりも人材不足の方が深刻に思う。喰われているのは私たちの人権の方だ。引き出しの辞表を見つめる。

備品の整理に倉庫に向かう。
棚を探していると、奥の棚から光が漏れている。隠し扉だ。あるはずのない部屋がそこにはあった。

「この部屋の秘密を知ったからにはあなたは…」
いつも優しい看護師長が冷たい表情で言った。