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その瓦屋根の一軒家には柱がない。柱がないのに建っているからには何か効果的な構造があるはずだと家の中を見てまわったが屋根は浮いているだけでそれを支える壁もない。柴犬が居間の真ん中に座っていて、後ろ足で首元を掻いたり毛繕いをするのはかわいいのだけど、そうやって犬が動くと屋根は不安定に揺れて犬と屋根が見えない何かで繋がっているのを感じる。犬の動き次第でこの屋根は崩れてしまうのだろう。誰かが口ずさむ月の砂漠が風のように聴こえて、僕はそっと禅寺みたいな美しい砂の庭に降りてみる。口ずさんでいるのは上空の巨大なドローンで、降下しながらアームを伸ばし瓦屋根の三角部分を正確に掴むと犬がくぅーんと寂しそうに鳴いて、地球を固定するネジのようなこの家を地面から引き抜いてゆく。僕はその根っこみたいなネジ山に飛びつくと、螺旋状の階段をあがり駆け寄る犬を抱きしめた。
ずっと一緒だよ。
遠くで崩れてゆく地球に僕は誓った。
公開:21/08/25 13:42

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